接待.01
「ククク……ようこそ。君は、ここがどういう場所だか、知っているよね?」
「はい……知っています」
襤褸切れを纏い、下着一枚の姿で正座をさせられた少女は、力なく返事をした。
「うん。それなら話は早い。早速だけど、君は勿論、未貫通の生娘かな?」
「未貫通って言うのは……? どういう――」
「ああん? 処女かどうかって聞いてんだよ! 馬鹿かお前はっ!」
娼館のオーナーは血相を変えながら少女に近づくと、みぞおちを力一杯に蹴り上げた。
「ぐぼおっ! うぼおぇぇぇぇ……!!」
「うわっ汚ねえなこいつ、ゲロ吐きやがった! おい! 誰かすぐに掃除しとけ!!」
「へ、へいっ!」
離れて様子を見ていた手下達がせっせと吐瀉物の清掃を始めた。少女はむせ返りながら、ただグズグズと泣いている。
「それとな、こいつが一日でも早く客を取れるようにお前ら指導しとけ。どうやら処女みたいだから、ぶっ壊さないよう一応丁重に扱えよ」
「承知しやしたっ!」
ブツブツと憎まれ口を叩きながらオーナーは席を外した。後には泣き続ける少女と、一人の手下だけが残された。
「あのな、嬢ちゃん。泣いたって何も始まんねーから。ここに流れ着いたことが、お前の運の尽きなんだ」
見兼ねた手下が宥めるように話し掛ける。少女はたどたどしい声で返事をした。
「だって、私……何も、悪いことしてない……のに」
「嬢ちゃんは悪いことしてなくたって、どうせろくでもない親に売られてこの娼館にやってきたんだろ? じゃあそれは同罪だ」
「お父さんも、お母さんも、そんな人じゃない!」
「まあ、ここに来た子は誰だって最初はそう言うさ。でもな、半月もすりゃ諦めて立派な女の顔に変わるんだぜ」
「私は……変わんないもん……」
「強情な奴だな。別にいいさ、こっちについてきな。オーナー様の命令だ、俺は嬢ちゃんを立派な商品に育てないといけないんだ」
「やだ、行きたくないっ! ここから出して、お家に帰して!」
「これ以上ワガママ言うなら俺だって乱暴になるぜ! そらっ!」
パシィン! 少女は頬に平手打ちを食らってその場に倒れた。手下はか細い腕をガシと掴んで、無理やり奥の部屋へと連行する。
「嫌だあ! 嫌ああああ……! 止めてえええぇぇ!! 誰か、助けてえええええっ!!」
少女の悲鳴を数人の客が耳に挟んだが、誰も助けようとはしなかった。空気のように、誰もが酷く無関心だった。
それもそのはず、ここは国が合法的に認めた娼館――借金を形に連れてこられる少女なんて、日常茶飯事のことである。
これからこの少女には、地獄のような性的搾取の日々が訪れることとなるだろう――。
「いつまで泣いてんだおめーは! 諦めろっつてんだろうが!」
「ううっ、ひぐっ……グスッ」
部屋へと運ばれた少女は今もなお泣き続けていた。ここまで諦めの悪い新人は最近では珍しく、段々と苛立ちが募る。
「いいか、よく聞け。オーナー様が処女かどうかって聞いたのは、処女だと通常の20倍の値段が付くからなんだ。お前は特別なんだよ」
「…………」
「だから、俺はお前の処女を奪うことは出来ない。しかし、商売女として少しでもセックスに慣れてもらわなきゃ困るんだわ。そこでだ――もうひとつの穴でも犯そうと思う」
「もうひとつの穴って、もしかして……」
「気付いてんだろ? ほら、四つん這いになれ。そして尻を突き出しな」
男はいそいそとチャックを下げると、太くて逞しい巨根をだらんと取り出した。黒々として、甲虫の皮膚と見間違うほどテカっている。
「無理っ! 絶対に無理ぃ! そんな大きいの……私のお尻に入らないよぉ!!」
「入るか入らないかなんて、やんなきゃ分かんねーだろ! いい加減学習して、俺の言うことを聞けやっ!」
ビシィ! バシィン! 今度は二発の平手打ちが入った。ビシュッと少女の鼻血が飛び散って、くすんだベッドのシーツを赤茶色に汚した。
「い、痛い……暴力、止め……て……」
「だったら俺が本気でキレない内に、命令には黙って従いな。分かったか」
「う、ううっ……コクン」
「へへっ。素直になりゃ、それなりに可愛げあるじゃねーか。おらっ、そのしょんべん臭ぇパンティーを脱がしてやんよ」
手下は少女の下着に手を掛けると、ビリビリと引き裂いて床にポイと放り捨てた。
「ああっ……! 見ないで、アソコを見ないでえぇぇ」
「へえ、まだ毛も生えてねえガキのマンコだなこりゃ。それだとアナルはもっと小さいんじゃねーのか」
力任せに尻を広げ、アナルをじっくりと観察した。控えめな皺が数本入った小さな窄み。恐らく大人の小指の先すら入らない極狭サイズだろう。
今度は鼻を近づけると、クンクンと肛門周囲のにおいを嗅いでみる。一通りの確認が終わると、極悪人の面でニヤリと笑う。
「クーッ、アナルはくせーな。嬢ちゃん、ここに俺の極太ペニスが入ったら、ケツの穴とマンコの穴がひとつに繋がるかもしれねーな」
「ひいっ! それだけは、許して下さい……他のことは、何でもするので……お願いします……!」
「せいぜい括約筋が緩まないよう気合を入れるこった。ローションなんてここには無いから、痛えだろうけど我慢しろよ」
手下は少女の尻穴をほぐすことなく、自分の唾を肉棒に塗り付けるとググッと窄みに押し当ててきた。
「だめぇ! 絶対に入らないから! 無理です本当に無理! ごめんなさいごめんなさい許してぇ!!!」
「だから諦めろっつーの。それに俺は抵抗された方が燃えるタイプだから観念しな」
再び力任せに極小の幼い窄みに挿入を試みた。いくら唾が潤滑液代わりになっているとは言え、サイズが違いすぎて、そう簡単には入らない。
雑な扱いでグイッグイッと肉棒を押し込んでくる。少女の上半身は太い両腕に完全にロックされて、身動きすら取れなくなっていた。
「ぎゃあああっ痛っ痛い! 痛い痛い痛ぁい! そんなの入らないから! お尻の穴が裂けちゃうううううう!!」
「へっ、興奮してきたぜ。もう少しで……入りそうなんだが……なっ!」
ズボオォ! 不意に括約筋が緩み、僅かに窄みが拡張して開いた。その好機を逃すはずもなく、極悪な肉棒が容赦なく少女の尻穴をズリュッと貫く。
「ひぎいいいいやあああああああああ!!!! 痛ぁいいいいいいいいぃぃっ!!!」
「おおっ入った入った! ガキのケツ穴はすげー締まりだな! こりゃその辺のマンコよりよっぽど気持ちえーわ!!」
ゴリゴリゴリと、比喩でもなく内臓が鉈で削られる激痛が少女を襲う。意識が朦朧とするが、焼かれるような痛みで一瞬の眠りからすぐに呼び覚ます。
腸液と出血によって若干滑りは良くなったが、如何せん幼い少女の窄みと大人のイチモツでは、耐え難い苦痛が増すばかりだった。
「死ぬうううっ! 死んじゃううううう! 誰か早く助けてええええええっっ!!」
「そうか、そうか。俺のペニスがそんなに気持ち良いのか。ガキのくせになかなか具合も最高だぜ、お前のくっせえケツマンコはよぉ!」
狭い室内に銃声のようなパンパンと乾いた音が響く。汗と湿気と血の匂いが混じり、気持ち悪さから少女は再び黄色い胃液を吐き出した。
「ぶぅおええええええ!! ぼぉうええええええええっ!!」
「ヒャハハハハ! お前ゲロ吐くの本当に好きだなぁ! 俺が気持ち良くなるように、きちんとケツを締め付けなぁ!」
バックでガンガン突きながら、手下は両手で少女の首を絞めた。突然呼吸が苦しくなり、全部出し切っていない喉奥の胃液で窒息しそうになる。
「ぶふうううううううううっ……ぶふふぅっ……げほっ、げほっ、ぶええええええっ!」
「なんだそりゃ? 発情した家畜の鳴き真似か? お前、ようやく自分の立場ってのが分かってきたんじゃねーのか」
「ぶふふうぅ……ぶぅおえええっ……うぉええっ」
残りの胃液を唇の端から全て吐き出すと、グタッと少女の全身が脱力した。このまま気を失うことが出来たら、一体どれだけ楽だろうか――。
しかし、悪戯な悪魔は楽になることを許さなかった。首を絞めることを止めたかと思えば、今度は少女の下腹部にある小さな突起物を容赦なく抓った。
「ぎぃいいややあああああああああああああ!!!!」
「ほぉー! クリトリスが性感帯だったか? お前やっぱ淫乱の素質あるよ、この娼館のトップを目指しなって!」
クリトリスを不潔な爪で力強く抓られたことにより、更なる激痛が襲い掛かる。なすがままで、少女は自分が操り人形だと今更になって気付く。
「おら! おらあっ! ケツマンコが気持ち良すぎてもうすぐ射精しちまいそうだぜ! お前の尻から妊娠させてやろうか、ああん?」
射精感が昂ってきた手下は、より強引に肉棒を打ち付ける。少女の尻の周りは血まみれで、腸内が相当傷付いているのは誰の目にも明らかだ。
「いぎゃあああああああっ!! ぎゃあああああああああああああっ!!」
断末魔にも似た、少女の悲痛な絶叫が止むことはなかった。埃と涙と吐瀉物にまみれた少女の顔は、使い古しの雑巾よりも醜く汚れている。
「そろそろ射精してやろうか? いいんだな? いくぞ、お前のケツマンコの中に出しちまうぞっ! オラオラッ!」
包まれた皮を剥いてクリトリスを抓り、グリグリと指で磨り潰した。真っ赤に腫れたクリトリスからグチュッと痛々しい血が滲む。
「んぎゃああああああああっ痛ぁああああああっ!! うぎゃあああああああああっ!!」
クリトリスが潰された反動で腸内が活発になり、ギュウウウと男根を締めた。その刹那、肉棒から大量の精子が少女の中に溢れ出す。
「いやあああああああああああああああああああっ!!!」
ドクッ、ドクッと肉棒が脈打つ度に精子が腸内へと放出される。傷付いた腸壁に精子がこびりつくと、ヒリヒリとした痛みが込み上げてきた。
やがて真っ赤に染まった物体がずりゅっと引き抜かれ、手下による残虐な肛姦プレイは終わりを告げた。
少女の窄みから、ドロンとフルーツソースになった精子と血液が混じって溢れ出てくる。
「おー、白と赤のコントラストで縁起がいいな。最近のプレイじゃ一番興奮したぜ、たまにお前のケツマンコ借りにくるわ。じゃあな」
手下は血で汚れた肉棒を少女の襤褸切れでゴシゴシと拭き取ると、一度も振り返らず部屋を後にした。
無限に続くと思われた地獄の苦痛から解放された少女は、放心状態になった。それから、疲れ果ててそのまま寝入ってしまった。
「おとう……さん……」
少女は眠りに落ちる前、奇妙な違和感を覚えた。
それは、繰り返す苦痛の中にある、ほんの僅かながら快楽を受け入れていた自分のよこしまな感情だとは、この時には気付いていなかった――。
その日、少女は夢を見ていた。まだ家族と暮らしていた時の、温かく、優しい、幸せな夢――。
誕生日を迎えた夜、生クリームの乗ったバースデーケーキが出てきた。少女は満面の笑みを浮かべて年相応にはしゃぐ。
父と母がバースデーソングを歌い、少女が蝋燭の火を消して……真っ暗になった室内を再び灯すと、目の前からケーキが跡形もなく消えている。
生クリームがたっぷり塗られたケーキの変わりに、小汚い男共の精子がたっぷり塗られた、自分の崩壊した頭部が皿に盛られていた。
饐えたにおいに吐き気が込み上げて、そこで悲鳴を上げ、少女は悪夢から目を覚ます――。
「今のは、夢……良かった。お父さん? お母さん?」
まだ寝惚けているのか、記憶が混濁しているのか、少女は居るはずもない両親を呼んだ。
「あ、そっか……私、いつの間にか眠って……もう朝に。うあっ! お尻が、痛ああぁい!」
突如、肛門の激痛によって我に返った。腸内が酷く裂傷しているらしく、恐る恐る尻の辺りを撫でると、真っ赤な血がべったりと手につく。
「ひいいっ……! あぁ、あぁあ……!」
昨日、自分の身に起こったことが現実だったと再認識すると、少女の心は絶望の奈落へと突き落とされた。
丁度そのタイミングで扉が乱暴にガンガンと叩かれる。今にも壊れるんじゃないかと思っていたら、返事をする前に扉がギッと開いた。
「おら、いつまで寝てんだ! 今から飯の時間だ。遅刻すると連帯責任だから5分以内に来いよ!」
それだけ言うと、扉はバタンと閉められた。幸いなことに、訪れたのは昨夜に肛姦をした手下ではなかった。少女にとって、あの男の下卑た笑い声はトラウマとなってしまった。
「合同の食事? 急がないと……連帯責任ってことは、きっと、私と同じような人が他にも沢山居るんだ」
しかし、着替えようにも少女は替えの下着がないことに気付いた。仕方無しに、出血の止まらない肛門を手拭いで結んで止血すると、変わらず襤褸切れのまま部屋の外に出た。
廊下に出ると、少女と同じくらいの背丈の女の子達がぞろぞろと歩いているところだった。服装も同様に皆ボロボロだ。
全員で20名くらいだろうか。恐らく食堂に向かうのだろうと思い、後列に並んでついていくことにした。
しかし、移動途中で妙なことに気付く。女の子達が向かう先は一般食堂ではなく、何故か男子便所の方角だった。少女はとても悪い予感がして、自分の二歩前を歩く子に話し掛ける。
「あの……これ、どこに向かっているんですか?」
「……食事だよ」
「えっ? で、でも、この先は男子トイレじゃ……」
「…………」
女の子は何も答えなくなった。わざと少女を疎外しているわけではなく、魂ここに在らず、と言った表情だった。
それ以上はどうすることも出来ず、少女もこの死人の行列について並んで歩くしか術はなかった。
男子便所の前に着くと、そこで別の手下より二列ずつ整列をさせられる。少女の隣に並んだ、背の高いボーイッシュな女の子がこっそり話し掛けてきた。
「ねえ、あなた見ない顔ね? 私はミザリィ。あなたの名前は?」
「私? 私の名前は……なんだっけ。思い出せない……」
「まあ名前なんていっか。この場所では名前なんて、何も役に立たないもの」
「あのう、これから食事なんですよね? どうしてトイレの前に――」
「しぃっ! 声が大きい。これからここで食事を摂るのよ。臭くてゲロ不味くて、不快感極まりないタンパク質を、お腹一杯ね……」
「タンパク質……?」
「せいれーつ!! お前達はこれから特別な飯の時間だ! 順番になったら二人ずつ中に入れ! たっぷり味わえよ、いいか!」
声の大きい男がこの場を仕切り号令を掛ける。そして、長い鉄棒で足を突かれながら、少女より少し年下であろう女の子達が男子便所の中へと消えた。
最初の子の食事が始まっておよそ45分後、最後尾に並んでいた少女とミザリィが男子便所の中へと通された。
「では、これから特別な食事の時間とする。お替わりは自由だから好きにしろ。お前は右の個室、お前は左の個室に入れ!」
少女は右の個室、そしてミザリィは左の個室へと通された。合同の食事なのに別々の部屋とはどう言うことだろうと考える。
別れる間際、ミザリィが『耐えるんだ』とアイコンタクトを送るが、彼女は合図に気付いてもその意味が分からずにいた。
お替わり自由と聞いてから少女の腹がグゥと鳴る。これが本当の話であれば地獄に仏だろう。だが、何かが圧倒的に違う――。
「ギイイィ――ガチャ、バタン。カチャカチャ」
恐る恐る個室のドアを開けて入ると、外からガシャンと鍵が掛けられた。その音の大きさに、全身がビクッと委縮する。
何ら変哲もない狭い男子便所の個室。ただひとつ、常識とは異なることと言えば、少女の視線の先には小さな穴が空いてあった。
「穴……だよね? 向こうには一体何が――」
中を覗き込もうとした瞬間、にゅっと何かが穴から飛び出した。
「えっ、嘘……食事って、これ……だって、おちんちん――」
プォォォーン! と、場にそぐわないラッパの音が響く。これが食事開始の合図だと悟った。そして、食事の内容も、お替わりの意味も遅れて理解した。
その時、少女の前に空いた穴の向こう側から、野太い声で野次が飛んでくる。
「おい! いつまで待たせるんだよ! 合図が鳴ったらさっさとしゃぶらんかコラァ!」
はち切れそうなほどギンギンになった肉棒を前にして、少女はガタガタと震える。恐怖におののいていると、隣の個室から声が聞こえてきた。
「じゅぽ、じゅぽっ……ああっ、美味しいっ! このチンカスの溜まったくっさいおちんぽ最高よぉぉ!!!」
ミザリィが歓喜しながらフェラチオを堪能している声だった。少女はここが世界の掃き溜めで、この世の地獄だと絶望する。
フェラチオの音に続いて、隣の個室から今度は中年男の声が聞こえてくる。
「あ~! ああぁ~! オラもうイギそうだぁ~、おめぇにザーメン食わせてやっから、残さずに全部飲めよ~!」
「じゅぽっ、じゅぽっ、ああっザーメン頂戴ぃ! おちんぽとっても大好きぃぃぃ! 濃縮還元した一等級精子を全て飲ませてぇぇぇぇ!」
ミザリィの積極的で明るすぎる声に、少女は始めこそ驚いたが、あまりにもわざとらしい演技に疑問を感じた。
こんな非人道的な行為を強要されているのに、どうしてあんなにも活き活きとした声を上げるのか――。
先程のアイコンタクトの行動と結びついて、自ずとミザリィの真意が浮かび上がってきた。
「もしかして、全て、私のため……?」
少女の勘は当たっていた。新入りだと分かった彼女を勇気づけるため、ミザリィは凌辱に耐えつつ、必死で明るく振る舞ってみせた。
再び目の前の肉棒に視線を落とす。意を決して少女は野太い声の男の性器を咥えた。腐った魚みたいな生臭い味わいが口の中を一瞬で穢す。
「おっ! やっとか、待ってました! 歯ァ立てるんじゃねーぞ! 上手にしゃぶりな!」
少女にとって初めての口淫であったが、今は何も考えないようにして必死で舐める。無我夢中で舐めていると、肉棒を喉奥まで咥え込んでいた。
「じゅぷっ! じゅぷぷぷぷ! じゅぷぷぷじゅぽぉっ!!」
「うっ、高速イラマチオとかやるじゃねーか……だが、俺はこのために安くねえ金を出してんだ! まだイカねーぞ!」
目の前の肉棒に集中することで雑音をシャットダウンして、少女は死に物狂いでしゃぶり続けた。無意識の内に頬を凹ませて吸引するテクニックに、早漏気味だった男の愚息は呆気なく限界を迎えた。
「ぐああああっ! がああっ! 出ちまうっ! 仕方ねぇ、十日間溜め込んだ俺のザーメンをたっぷり味わえよぉ!!」
ドピュドピュウウウ! 弾丸のような勢いで口の中に精子が放たれた。少女は目を白黒させながら、これをどう処理すればいいのか必死で思考する。
(どうせ、ここではまともな食事なんて出ないんだ……それなら、これは本当に貴重なタンパク質になる……)
少女は生きるため、覚悟を決める。瞬時にその判断まで至ったのは、ミザリィの捨て身の行動があってこそであった。
ゴクン――涙目になりながらも、顔も知らない男の精液を零さずに飲み干す。穴の方を見やると、既にさっきの男の肉棒はその場から消えていた。
しかし、安堵するのも束の間。ご丁寧にも、すぐに次の『お替わり』が補充される。終わりのない食事。
「ワシは年金を使って楽しむこれが月に一度の極楽なんじゃ。はよしゃぶって極楽浄土に連れてってくれえ」
しゃがれた声や性器の形状から想像するに、かなりの高齢者だと分かった。若者から老人まで、娼館の利用者の年齢層は幅広い。
それでも、今の少女には機械のように無心で食事を摂ることしか出来なかった――。
食事の時間を終えて、各々は部屋へと帰される。個室から出た後、ミザリィにお礼を言おうと辺りを探したが、彼女の姿はどこにもなかった。
精液でタプタプになった胃袋をさすりながら、少女もようやく自分の部屋へと戻ってくる。
まだヒリヒリと痛む肛門を気遣いながら、硬いベッドにゆっくり腰かけると、天井を見上げて物思いに耽る。
「あいつらの言っていたこと……きっと本当なんだ。うちは貧乏だったから、私は両親に捨てられて……そして、ここに連れてこられた……」
今朝に夢見た誕生日のお祝いケーキなんて、実際には全くない架空の想い出だ。それは少女が捏造した儚い願望でしかない。
「それでも、生きないと……私、怖いけど、生きないと……いつか、借金を返済すれば家に帰れるはずだから……」
昨日までの、泣き叫ぶばかりの少女ではなかった。僅か二日目にして、自分の境遇を理解して、この劣悪な環境に順応することを選んだ。
食事の回数は毎日固定なのか不明だが、その日の食事は朝の一度きりだった。圧倒的にカロリーが足りない。
空腹を紛らわせるため、蛇口に口付けして水道水を鱈腹流し込む。人肌程度に温く、やや粘度のある水は鉄サビの味が強くて非常に不味い。
不味くても飢えを凌ぐため、無理やり体内に流し込んだ。但し、幾ら水を飲んでも、飲んでも、空腹が満たされることはなかった。
――少女は、ただ生きることに貪欲であり、他には何もなかった。
夜になっても部屋の外は賑やかで、嫌でも四方八方から男女のいやらしい声が聞こえてくる。アンアン、イクイク、煩くてとても眠れそうにない。
この娼館は別名『獣性の不夜城』と一部から呼ばれている。昼の姿より、寧ろこれからの時間が、人間の本性が暴かれるコアタイムなのだ。
獣〈けだもの〉のように肉欲を求めるからと言う意味らしいが、所詮、獣なのは女を買う側だけなので、何とも皮肉なネーミングだと言える。
「何日か経てば、新人の私もお客を取るようになるのかな……初めては、好きな人が良かった……」
処女喪失はもしかすると数日後、それか明後日かもしれない。否、急遽明日になる可能性だって充分にある。
手下が『処女は20倍の値段が付く』と言う言葉を思い出して、少女にブルッと悪寒が走った。
「……コンコン」
「あれ……誰か、扉をノックした? 気のせいかな」
部屋の入口を眺めていると、どうやら聞き間違いではないらしく、もう一度ノックの音がする。
「……コンコン……おーい、新人はこの部屋でしょ? 起きてるー?」
聞き覚えのある声だった。少女が今、一番会いたがっていた人物――食堂に向かう途中で、親しげに話し掛けてくれた、あのミザリィた。
「もしかして、ミザリィさん?」
「そう! 名前、憶えてくれていたんだ。部屋に入っていい?」
「どうぞー。開いているので!」
ギギィ、建付けの悪い扉を開けて、照れ臭そうに頭を掻きながらミザリィが入ってきた。
シンプルな作りではあるが、クマの刺繍が入った上下セット寝間着姿で、少女と比べると格段に身なりが良い。
「こんな時間にごめんね、あんたとゆっくり話をしてみたくなってさ」
「私も話がしたかったんです。今朝のこと、本当にありがとうございました!」
「今朝のことって、挨拶の話? それと敬語抜きでいいよ、さん付けも要らないから。呼ぶならあたしはミザリィで呼んで」
「じゃあ、敬語抜きでもいいなら……トイレの個室内で、私を勇気づけてくれてありがとう」
「あぁー! 気付いてくれたんだ、それなら良かった。あんたにいきなりアレはしんどいと思ってさー」
ミザリィと話していると、少女は心の裡にあったわだかまりが溶解していくような、懐かしい気持ちになった。
「うん、まさか特別な食事の正体が精液だなんて、思っていなかったから。実は、個室の片隅で震えていたの」
「最初は誰でも面食らうさ。あたしだって、強がっていても初めての時はかなり戸惑った。ほぼ未経験だったし。しかも、運悪く客のちんぽこに噛み付いちゃってさ。三日間も独房で折檻受けたりしたよ」
「噛み付くって……あはっ。あっ、ごめんなさい! 今のは、ミザリィのことを笑ったんじゃなくて!」
「いやいや、今となっては笑い話だよ。この娼館に居る女の子の殆どは、感情が死んで、廃人同然になっているから。新鮮な反応で嬉しいね」
「そう言われると……ミザリィと会うちょっと前、別の子に話し掛けたんだけど、まるでゾンビのようだった」
久し振りに同年代くらいの女の子との会話が弾み、少女はとても楽しい気分に浸っていた。ミザリィと言うのは不思議な女の子だ。
昨日今日の心底辛かった記憶も、ミザリィと居れば忘れられる気がしている。まだ出会って間もないのに、依存なのか、少女にとって彼女の存在は大きなものになりつつあった。
「ゾンビってのは言い得て妙だね。あんたは、これまで娼館にやってきた女の子の中でも、違う何かを持っているね」
「違う何か……って? たとえば?」
「あたしはセックスと手コキしか取り柄のないバカ女だから、難しいことは分からないけどさ。強いハートを持っていると感じたよ」
「強いハートかあ、あったらいいな。自分では分からないけど……私、いつかこの地獄から抜け出したいの」
「それは、借金を完済して娼館から堂々と出ていくってこと?」
「うん。ミザリィも完済することを目指しているんでしょ」
「それは……ガッカリさせて申し訳ないけど、諦めるべきだね」
「諦めるって、どうして?!」
総額は幾らなのか知らないが、少女は借金さえなくなれば家に帰れると思っていた。そのため、諦めるべきだと言う言葉には驚愕した。
詰め寄ってくる少女をなだめながら、ミザリィは順を追って説明する。
「まあ落ち着いて。まず、この娼館を切り盛りする男達にとって、あたしらは大事な商品なんだ。そんな商品を、わざわざ手放すと思う?」
「それは……確かに、でも、それだと約束が違う!」
「娼館のルールとして、約束は破るためにあるのさ。バックには国家がついているんだよ。この場を堂々と、公に出られる唯一の方法は……あたしらが亡き者になった時だけさ」
「そんな、死ぬまで帰れないなんて……そんなことって……」
少女は絶句した、上手く呼吸が出来ないのか、コヒュッと空気を吸い込んで、金魚みたいにパクパクと口を動かして酸素を求める。
「……この話はまだ終わりじゃないよ。今のはあくまで『公に出られる方法』だ。あたしの本題は――ここから」
話していいものかどうかと、ミザリィは考えていた。指で唇をトントンとして、考え抜いた結果。決心して少女に打ち明ける。
「あたしは、この娼館を脱走しようと思う」
「脱走って……まさか、ひとりで危険過ぎるよ!」
「まあね、ひとりでは無謀だと思う。捕まったら一巻の終わり、逃走防止で薬漬けにされる可能性が高いだろうね。そしたら一生独房暮らしだ」
「そんな危険なことは止めよう! リスクが高すぎる、どんなに苦しくても、命あってのものだから……!」
「だったら、ふたり、もしくはそれ以上の人数なら、どう思う??」
「ふたりやさんにん、それ以上なら――」
「あたしは何が何でも脱走してみせる。あんたも生きて家族の元へと帰りたいなら……この計画に乗ってみる? 無理強いはしない」
ミザリィの眼差しは真剣だった。その眼は、本心では少女の協力を仰いでいることは明白だった。
「……ミザリィ。あのね、少しだけ、考える時間がほしい」
「そうだね。じっくりとよく考えた後に、返事を聞かせて。必ず成功するって保障もないんだ。じゃ今夜はそろそろ部屋に戻るとするよ」
スクッと立ち上がり、扉のノブに手を掛けたところで、急に振り返った。
「――あっ、そうそう。あたしさ、あんたに名前なんて役に立たないとか言ったけど、名前あった方がいいみたいだね」
「でも、私は未だに自分の名前も思い出せなくて……」
「あたしが決めてもいい? たった今思い付いたんだけど『クラリス』ってどうかな?」
「クラリス……私は、クラリス……素敵! 私、これからクラリスって名乗ってもいいの?」
「決まりだね。クラリスってのは、あたしの故郷では【輝く】って意味を持つんだ。今のあんたにピッタリの名前だから」
「ありがとう……とても嬉しい。名前をもらったことで、明日からもしっかり頑張るね」
「そんなに喜んでもらえて嬉しいよ。因みに、私のミザリィって名前は【悲惨】って意味があるんだ。環境的にピッタリでしょ? じゃあ、おやすみ」
背を向けてバイバイと手を振ると、ミザリィは小走りして去っていった。
少女、もといクラリスは、こんな世界の掃き溜めで、生涯支え合う友と出会えた――。
接待.02
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