贄ノ淫女


『贄ノ淫女』

 およそ三百年前、大飢饉に見舞われたひとつの村が滅びそうになったことがある。
 非常事態に村長は有識者数名を集め、魔物の住処へと助けを求めに行った。
 人間とは相容れぬ存在だったが、条件付きで魔物は食料を分け与える約束をして、それに村長達も承諾した。
 その条件とは『10年に一度、人間の村で最も美しい女を贄〈にえ〉として捧げる』ことであった――。

「もう三百年も前の約束を未だに守り続けることに、意味があるのか分からんが……辛い目に遭わせてすまない」
「いいんです。これが私の天命だったと受け入れております」
「そうか、ならワシから言うことはない。お前さんの親兄弟には、きちんと生活に困らんよう面倒を見る。安心して行ってきなさい」
「ありがとうございます。それでは、村長もどうかお元気で。行ってまいります」
 アナスタシアは丁寧に会釈をすると、一人で魔物の住処へと向かっていった。
「……本当にすまない、アナスタシア」
 村長だけが知っていた。贄に選ばれた女が、一体どのような末路を辿るのか。
 言葉にするのも悍ましい結末が待っていることを、決して誰にも教えることはなかった。

「あっ、ああ。そんなところ……舐めるのは、汚いです……」
 アナスタシアは衣服を全て脱がされ縄で縛られると、蜥蜴男〈リザードマン〉から執拗に性器を弄ばれていた。
「ひひっ、実に数年振りとなる人間の女の身体だ。まだまだ存分に楽しませてもらうぜ」
 長く伸びた舌の先端は割れていて、丁度左右の小陰唇の位置に当たり、同時に舐め上げることが出来た。
「あんっ! ああっ! 止めて……見ないで、恥ずかしい……」
「恥ずかしいとか言いながら、随分とオツユが溢れているけどな。人間の男の愛撫より、ずうっと気持ち良いだろ?」
「チュル、チュルチュル、ズッチュルルンッ」
「あっ、あぁあんっ! どうして……こんなに、感じてしまうの……?」
 蜥蜴男の舌から催淫効果のある分泌液が滲み出ており、直接性器へと触れたアナスタシアの身体は火照る一方だった。
「チュッ、チュウウ、チュチュッ、チュルッ――」
「い、いや……舌が、私の腟内〈なか〉に……」
 蜥蜴男の舌は膣の奥まで潜り込み、中を掻き回すようにしてたっぷりの分泌液を塗りたくった。
「あ! ああんっ! そ、そんなところまでっ……!」
 ビクビクと過敏に反応するアナスタシアの反応を見やると、蜥蜴男はシュルルと舌を閉じて何処かに行こうとしていた。
「え、これで……終わり……?」
「人間の女よ、お前の大陰唇から小陰唇、陰核や膣内に至るまでたっぷりと分泌液を染み込ませてやった」
「……?」
「それがどんな意味か、分かるか? ま、楽しみにしてな。後は他の奴に任せるとするか。俺はひと眠りするよ」
 そう言うと、蜥蜴男はアナスタシアを置き去りにして、さっさと塒〈ねぐら〉に戻ってしまった。
 アナスタシアはまだその言葉の真意を知らずにいた。身体を捩じると、彼女の膣内から内腿を伝って愛液がツツーッと垂れてくる。
 
 それから30分後――。
「はぁ、はぁ、はぁ。誰か、お願い……私のマンコを、私の、ゲスマンコを犯してえええ! 早く頂戴いいいぃぃ!!」
「こりゃたまげた。清楚ぶった人間のクソ女が、あっと言う間に淫売肉便器に成り下がってやがる。傑作だ!」
 アナスタシアの様子を見にきた悪魔鬼〈ホブゴブリン〉がケラケラと笑っている。
「あ、あっ! お願い、今すぐ私を犯してええっ!! 穴という穴に、硬く勃起したチンチンを挿れて脳までブチ犯してええっ!!」
「オォ怖。蜥蜴男のヤローが面白いもん見られるって言ったからきてやったのに、頭のイカれた人間の女なんてオレの趣味じゃねえよ」
 踵を返そうとした悪魔鬼を引き留めようと、アナスタシアは大声で叫ぶ。
「待って! 行かないでぇ! 私のゲスマンコに高貴なチンチンを挿れて中出し妊娠させてえええっ!! 今すぐ着床して孕ませてええっ!!」
「キャンキャンうるせえ女だな。テメーなんざこれで充分だろ!」
 悪魔鬼は片手に持っていた酒瓶を、だらしなく開きっぱなしの性器にズボッと突き刺した。
 ブシュウウウッ! アナスタシアはそれだけで絶頂に達してしまい、制御不能なスプリンクラーのように大量の潮を撒き散らす。
「あああぁぁぁああっ! 気持ちぃいいいいいいいいぃぃ! しゅごおおいいいいいいっ!!」
「酒瓶を突っ込まれてイクとか、流石のオレでも引くわ。あーもうそんならトロルの集団でも呼んでくるから、一生そこで輪姦してもらえカス」
 呆れた悪魔鬼はアナスタシアに侮蔑の眼差しを向ける。ペッと痰を陰核に吐きかけると、闇の中へと消えてしまった。
「ふひいぃ、ふふっ、あははははははは!!」
 生真面目な娘ほどその反動は大きいのか、魔物の住処に来て僅か一時間足らずでアナスタシアの精神は完全に崩壊してしまった。
 
「おお、兄者。人間の娘だ。しかも、とびきり可愛いぞ」
「本当だな、弟よ。可愛いな。俺、タイプだ」
 意識を失って眠っているアナスタシアの下にトロルの兄弟がやってきた。身の丈は12フィート程あり、腰布から大きな陰茎がボロッと見え隠れしている。
 この住処に居るトロルは亜種であり、本来の巨人族とは異なる進化を遂げている。その特徴のひとつとして、まず挙げられるのが受精率の高さだ。
 人間と魔物による異種姦ではなかなか着床するまでには至らない。しかし、彼らの遺伝子は卵子と結合することに特化しており、人間の女と交わればほぼ確実に懐妊させることが可能であった。
「ん、うん……あ、ああ……」
 会話の声で夢現だったアナスタシアは目を覚ました。蜥蜴男による催淫効果は、永続的ではない。少しだけ正気を取り戻していたが、その反動は大きく思考が全く定まらない。
 今の彼女にはトロルの姿は、自分を魔の手から救いに来た勇者のように見えていた。
「ああっ、勇者様ぁ! 迎えに来て下さったのですね……早く私を抱いてぇぇ!!」
「おいおい、俺達が勇者だってよ。どうする兄者?」
「錯乱して頭がお花畑なんだろ。抱いてって言っているから抱いてやるか? 弟よ」
「そうしよう。先に兄者からどうぞ。俺はおこぼれでいいから」
「じゃあ俺からいただくぞ。たっぷりと子種を分けてやるとしよう」
 拘束されたままのアナスタシアの身体をトロルはひょいと抱き上げると、両手首を掴んで吊し上げにした。
「よくよく見ると、やっぱり凄く可愛いな。俺、興奮してきたぞ」
 トロル兄の陰茎はみるみる内に肥大化して、人間の太腿ぐらいまで膨張した。厄介なことに、サイズは大きいのに肥大化しても硬度はないので、狭くて小さい穴でも力任せに押し込むことが出来る。
 これから兄による凌辱ショーが始まろうとしていた。次の順番が待ち遠しい弟は、自分で陰茎を扱いて入念な準備をしている。
「勇者様の大きくて愛おしい。ああ、こんなものが私の膣内に入ったら、どうなることやら……」
 ただの現実逃避なのか、はたまた催淫がまだ抜けていないせいなのか。アナスタシアの瞳の奥は虚ろで、見えているようで、何も見ていない。
 トロル兄は天井の柱に手首の縄をガッチリ固定すると、両腕で勢いよく彼女に大股を開かせた。
 ぱっくりと開いた女性器が、物欲しそうにパクパクと呼吸している。トロル兄は腰を落として、下から一気に陰茎を突き上げた。
 ズリュッ! 肉壁の強く擦れる音がして、下腹部のおよそ半分がアナスタシアの膣内へと収まる。陰茎がギチギチと内臓に詰まったせいで、彼女の腹は形を変えてぼっこりと膨れた。
「ぐへぇええええぇぇぇっ!」
 突然の腹の圧迫感により、アナスタシアの口からヒキガエルのような醜い声が上がった。
「おおおおおっ! なんだこの締まり具合は! 今までの人間の女の中で最高の名器だ!」
 トロル兄はアナスタシアの腟内をとても気に入ったようで、夢中になって腰を振っている。一突きされる度に、腹がボコボコッと蠢いて、ドスの効いたカエルの合唱が繰り広げられる。
「あ、兄者、俺も参加したい。俺はその娘の口を借りてもいいか?」
「いいぞ弟よ! 二人でこの娘を存分に悦ばせてやろう! 何せ俺達は選ばれし勇者なのだからな!」
 誤解が誤解を生み、しかし誰も間違っていない歪な性交が儀式的に行われる。トロル弟はアナスタシアの髪を掴むと、陰茎を口の中に捩じ込んだ。
「んうううううっ! んぐむうううううっ!!」
 声にならない声でアナスタシアは呻く。それは拒否を表しているのか、快楽の先にある反応なのか判別は不可能だ。
「口の中も最高だぞ! 半ば意識が飛んでいるくせに、本能的に俺の肉棒に吸い付いてくる!」
「そうか! それは良かった! 後で上と下を交代するか? 俺達の子種を半分ずつ注いでやろう」
「流石は兄者、賢いな。口の中に出したら今度は交代しよう」
 トロル兄弟は一心不乱にアナスタシアの身体を弄び、気の済むまで蹂躙した。その宴は兄が8回、弟が6回射精するまで延々と続いた。
「ひぐっ、ひぐ、ぐへっ、ぐえええぇぇ……」
 樽数個分にも及ぶ量の精液で、彼女の腹はパンパンに腫れ上がった。もし針でも刺そうものなら、そのまま萎んで何処かに飛んでいってしまいそうだ。
「最高だったな。兄者」
「ああ、また気が向いたら遊んでやろう。弟よ」
 やっとのことで自由の身となったアナスタシアだが、更なる悲劇〈トラジェディ〉が待っていることは知る由もない。
 心身共に疲れ果てたアナスタシアは、精液の海に揺蕩い、死んだように眠る――。

 バシャアッ! 突如、頭に冷たい水を被り、アナスタシアは暗がりの地底で目を覚ます。
「起きろ。ほら、こっちに来い――」
 どうやらバケツで水を掛けたのは、最初にアナスタシアの身体を弄んだ魔物、蜥蜴男だった。帯刀を抜き、スパッと縄を切断して拘束を解く。
「……どうして?」
「面会の時間だ。ここを統治する女王が、お前に一目会いたいんだとよ」
「そう……ですか……」
 まだアナスタシアの頭の中は数時間前のトロル兄弟による蹂躙で意識が混濁している。おぼつかない足取りで、かがり火を頼りに前へと進んだ。
 連れてこられたのは、大きく円形に空間が広がった玉座の間だった。部屋の左右には護衛となる魔物が武装して配備されており、嫌でも緊張が高まる。
「ほう、お前が今回の贄か……もっと近う来い」
「おらっ! 女王がお呼びだ、行ってこい!」
 蜥蜴男に乱暴に背中を足蹴りされて、フラフラとしながらアナスタシアは女王の前へと立つ。
 その表情はフードを被り、はっきりとは見えない。しかし、その暗闇の奥で、真っ赤な瞳が死兆星〈アルコル〉のようにギラギラと輝いているのは分かった。
 頬杖をつきながら、如何にも余興を楽しむような口調で、女王は問い掛けてきた。
「お前は――今ここに居る自分が、不幸だと思うか?」
 質問の意図が理解出来ず、アナスタシアは困惑した。こんな話をするためにわざわざ呼び出されたのかと考える。
「それは……どう言う意味でしょうか?」
「言葉のままの意味だ。答えよ」
 ブヨブヨとした意識の混濁から抜け出して、少しずつ思考の回転が戻ってくる。以前の自分を取り戻して、はっきりとした強い口調で彼女は答える。
「私……私は、不幸なんかではありません。何故なら、私が贄になることで大切な村の皆と、これからの平穏が保たれるからです!」
「……………………」
「チッ! あの人間の女め……!」
 蜥蜴男の大きな舌打ちが聞こえてきた。力強い回答を聞いても、女王は無言のまま、微動だにしない。
 アナスタシアの心音がドク、ドク、と速くなる。だが、自分の答えが決して間違ってはいないと誇りを持っていた。
「クッ……」
「…………?」
「ククッ、クッハッハッハッハッハ!!!」
 女王は大声で笑い出した。何がどうなっているのか分からず、アナスタシアはただその笑い声が収まるのを静かに待つ。
「愉快だ、誠に愉快だ! お前は馬鹿正直な人間の女だな、気に入ったぞ!」
「……何がおかしいのですか」
 決して女王に屈せず、ギッと睨み付けながらアナスタシアは立ち向かう。
「フフ、だったら教えてやろう。お前が信じて止まない、その大切な村人の姿とやらをな!」
 女王は懐から水晶玉を取り出した。アナスタシアが覗き込むと、そこには過去の彼女自身が映っている。丁度、贄として村を出発した時の映像だった。
「これ、は……」
「面白いのはこれからだぞ、その眼に真実を焼き付けよ」
 村長と助役の女が、何やらひそひそ声で会話をしている。アナスタシアにはっきりとその声が耳に届く。
「……やっとアナスタシアが行ったか、ふぅ……助かったわい」
「これで一件落着ですね、村長。あんなに愚直で頭の悪い女、よく見付けてきましたね」
「なあに、ワシの魔力で記憶をちょちょいっとな、あいつはその辺の森で拾ったただの孤児。村の人間ですらないから、ちっとも心が痛まんわい」
「そんな、うそ……私が、村の人間じゃ……ない?」
 全く思ってもみなかった非情な事実を突き付けられて、アナスタシアは膝からガクンと崩れ落ちた。
「左様。まだまだこの話の続きはあるぞ」
「それで、アナスタシアの家族……まあ、仮の家族ですけど。あれはどう始末するんです? まさか本当に生活費を工面するのですか」
「もうアナスタシアは戻ってこんから不要じゃろ。今夜にでも食事に毒薬を混ぜて始末なさい。無駄金を遣う余裕などこの村にはないわい」
「分かりました。そのように対処します」
「うそ……嘘よ! こんなの嘘! 村長、お婆様、お爺様、お母様……ああああああああっ!!!」
 毛髪を掻き毟りながら泣き叫んだ。ブチ、ブチと髪の毛が千切れても錯乱して止まらない。
 村の裏切りだけではなく、偽りでも本当の家族として接してくれた人達への残酷な仕打ちに、彼女は慟哭した。
 
「どうだ? お前の命なんてそんなものだ、出生に至るまで、村の人間に欺かれていたことを知った気分は最高だろう?」
「ううう、うう……よくも、よくもよくもぉ!! 許さない許さない許さないィィィ!!」
「いい面構えになったな――合格だ」
 女王は膝を付いてアナスタシアと目線を合わせると、フードをサッと外す。
「……え? 女王は、もしかして……人間、なのですか?」
 端正な顔立ちの女性だった。年齢も恐らくアナスタシアとそう離れていない。若々しく、禍々しいオーラを守った絶世の美女だ。
「我はお前と同類だ。村の贄に選ばれた人間の母と、魔物との間に産まれたハーフだ」
「そんな、では十年前に捧げられた贄の一族……!」
「そうだ。どうしてお前に全てを打ち明けたか、その理由は分かるか?」
 ゴクンと唾を飲み込んで、アナスタシアは言葉を噛み締めながら答える。
「私も同じ贄であり、そして、既に私の胎内には、魔物の子を宿しているから――」
 女王は蠱惑的な笑みを浮かべた。スクッと立ち上がり、その手を地べたに這いつくばるアナスタシアへと差し出す。
「復讐を果たしたければ、我についてこい。村人ではない人間を贄として差し出した罰だ。あの村を――今から滅ぼす」
(これは決して絶望ではない――この手は、救いの手だ)
 そう思ったアナスタシアは、女王の手を取り立ち上がった。轟々と燃え盛る復讐心を灯して。

「うぎゃああああああ! 誰かっ! 誰か助けてくれえええええっ!」
「えーん! えぇーん!! お母さん死なないでええええっ! うえええええん!!」
 平穏だったはずの村は、阿鼻叫喚へと変わった。魔物達による襲撃で、老若男女問わず、その殆どが惨殺された。
「フハハハハハ! この我を欺こうとしたことは大罪だ! 全員死ね! 滅ぶがいい!」
 翼竜〈ドラゴン〉の背に乗り、女王は美味しそうに血のワインを飲んでいる。壊滅していく村の様子を上空から眺めていた。
 そして、その女王の傍らに一人の少女が、アナスタシアが隣でジッと眺めている。あれほど優しかった彼女の眼差しは、今では氷塊のように冷たい。
「さあ、どうするアナスタシア? 村長はどうやら何処かに隠れているようだな。心当たりはないか?」
「それでしたら、北西の位置にある見張り台の裏、そこには地下部屋があります。恐らくそこに逃げ込んだのでしょう」
「承知した。行くぞっ翼竜!」
「ギャオオオオオーン!」
 翼竜は風を切り裂いて加速すると、急降下し鋭い羽で見張り台を破壊した。瓦礫の下に、うっすらと地下へと続く通路が見える。
「では我についてこい。そして、お前の覚悟をしかと証明せよ!」
「仰せのままに、女王」
 女王が翼竜の背中から飛び降りると、それに続いてアナスタシアも飛び降りた。

 地下部屋では村長と助役の女が隠れていた。その手には金銀財宝を掴み、この期に及んで一切手放そうとしない。
「なっ! どうして、ここに居るんだアナスタシア!」
「村長――」
「そうか、分かったぞ! この村の襲撃は貴様が企てたものだな! 村人の一員として育てた恩義を忘れたのかっ!」
 女王は黙って後ろで佇んでいる。一歩前に足を出し、アナスタシアは村長の前へと立ち尽くす。
「村長、もう下手な小芝居は止して下さい。反吐が出そうです」
「何が小芝居だ! 早く魔物を撤退させろ! お前の大切な家族がどうなってもいいのか、ええっ?」
 家族の話を持ち出されて、アナスタシアの血管がブチっと切れた。
「その大切な家族も、何もかも奪ったのはお前らだろうがあああああああっ!!!」
 村長の右頬辺りを思い切り拳で殴った。顔の骨は粉砕し、端から端へと吹き飛ばされて壁に全身を打ち付ける。
「ゴバァッ……!!」
 たったの一撃で、村長は絶命した。その様子をずっと見ていた助役の女は、歯をガチガチ鳴らし、チョロチョロと尿まで漏らしている。
「素晴らしい、いいぞアナスタシア。お前は既に魔物と性交を繰り返したことで、我々と同等の力を得ているのだ」
 感嘆の声を上げながら女王はパチパチと拍手をした。村長への復讐は果たしたが、まだもう一人、家族を葬った実行役の女が生き残っている。
「して、その助役の女とやらがアナスタシアの家族を手に掛けた張本人だ。どのように処するつもりだ?」
 アナスタシアは目を閉じて、幻となった家族に問い掛ける。どのような復讐が、最も適しているのか――。
「女王。私は、この女を処しません」
「なんだと……?」
 一瞬にして女王の声は殺意を帯びた。しかし、その続きの言葉は納得させるには充分な内容だった。
「この助役の女こそ、新しい贄でございます。住処へと連れ帰り、私と同じく魔物の子を孕ませ、死なない程度に永遠の責め苦を与え続けましょう」
「フッ……フハハハハハ! 面白い! その案を採用しよう、では行くぞっ!」
 断末魔に似た悲鳴が響いたが、その声が村人に届くことはなかった。助役の女の末路は、誰も知らない――。

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